2017-01-01から1年間の記事一覧

準備中

12月27日。 もう年の瀬も近付いている。慌ただしい日々。自信を持ったり失ったり、揺らめいている私は宙に浮いているようだ。 音はなぜ、形を持たなかったのだろうか。耳に差し込んだイヤホンから壮大な四重奏が体の中に入ってくる。揺らめいて広がり、近付…

12月14日。 夜。冷たく澄んだ空気が頬をさす。 デスクに釘付けだった首が錆びたペダルのように悲鳴をあげる。宵闇。徐々に増えていく星。寒さなど忘れてしまった。

12月13日。 思い出しては忘れ、忘れてはまた思い出している。どうしてなくならないのか。自分の心は思い通りにならない。思い出したあの気持ち、希望、理想。離れていて忘れた悲しみ、現実。

国道

12月11日。 私は、今まで行ったところのかけらでできている。 そんな思いに駆られたのは、大きな国道沿いを歩いていた帰り道。重たいトラックが次から次へと、暗闇を照らしながら轟々と唸り声をあげて引き摺られていく。赤信号が遮ると、冷たい風が吹き、街…

白い器

12月9日。 ストーブの上のやかんは、シュンシュンと鳴って、カタカタと小さな蓋を揺らす。大人しい一輪挿しは薄麻色をしていて、深い焦げ茶のテーブルに身を預けていた。隣の夫婦は、ぽつりぽつりと話をしては、それぞれの手元の本に視線を落とす。女性がた…

チャック

12月7日。 話したいというのにマスクをしている。歌いたい食べたい伝えたい。それでも自分の心だけは強固な壁で見えないようにした。マスクをとる自信はなかった。 自分だって愛想がよくないのに、他人の気のない返事で心が痛む。不快にさせていないかと考え…

白い息

12月6日。 心の中には、決まりごともモラルもない。何を考えていようと、反対に何も考えていなくとも、自由で無秩序で、垣根もない虚空。無になるにはあまりに広く、片付けようにも底が見えない。目には見えない世界、誰とも繋がってはいないようだ。 口を閉…

イチョウ

12月5日。 どんなに喚いても、あなたは私になれないし、私だってあなたにはなれないのだ。傷付けられたあなたはただ一人。痛みを分けあっても、どうしようもなく一人だ。

12月4日。 どうしようもないもの。自分の心だ。

12月3日。 午後の公園では、よく物思いに耽る。過去に想いを馳せたり、未来を傍観してみたりする。 氷の上を、刃のついた靴が模様を描く。多くの人が実に楽しそうに、自由に、あちこちに動いている。間を縫いながら、風を切って滑るのは心地よい。シャッシャ…

瞳の奥

12月2日。 青い空に澄んだ光、師走の冷たい風が心地よい。学生服には色とりどりのマフラー。彼らの淡い感情を繋ぎとめるように編まれたチェック柄。胸の奥で、子猫に甘噛みされたような痛みを感じる。 何か新しいことを始めたい。変わりたい。そんな気持ちで…

12月1日。 はじまりの日、別れの日。それまでの時間はどこにあったのか、ふりかえるには少し急だった。大切なものはすぐにはできない。与えられるものが少なければ、失うものも多くないはずだ。それなのになぜだろう。失う痛みは身を削られるようだし、与え…

地下鉄

11月30日。 考えがまとまらない。何度思い直しても、同じところから抜け出せない様は、傾いた車輪のようだ。 地下のアリの巣を迷いながら進む。答えはない矢印の先。冷蔵庫の中で、君を抱きしめることだけは間違っていないと思った。 黄色い時計が好きだと言…

シャベル

11月29日。 順番という言葉を覚えたのは、きっと友達とおもちゃを取り合ったときだ。「ほら、じゅんばんだよ」そう言えることは小さい体の誇りとなった。「じゅんばんだから」我慢することも覚えた。

足元

11月28日。 とってつけたような、見栄えの良い服を着ても、生活は欠かせない。分かってはいても、久しく顔を見なかった人に見栄をはりたくなるのは、自分を嫌いになりたくないからだろう。 中身がしっかりしてるから、大丈夫よ。大切な人にそう言われること…

菓子

11月27日。 人生には、いつか大切な人と、さよならするまでしか時間がない。 明日か、明後日か、もっとずっと先か。今すぐにということもあり得る。いつかさよならする時がくる。もしかしたら、さよならなんて言う間も無く訪れるのかもしれない。 見通しもつ…

瓶詰め

11月26日。 何かを褒める時、他のものを貶さないと褒められない人がいる。一つだけ評価することは難しく、低いものと比べるのは簡単で分かりやすいからか。悪い言い方をすれば引き立て役。それはまるで恋愛と一緒だ。 「私の知らないところで、幸せになって…

帽子の形

11月25日。 この胸があつくなるのは、君の顔がかっこいいからだろうか。言葉はいつまでも頭の中を漂い、回復薬のように、何度も何度も力をくれる。嬉しくなる距離がある。同じ気持ちでいたいと願う。大きな背中に隠れて、風よけにしてじゃれた日。優しい言葉…

目的地

11月24日。 ひらひらと風に舞う葉も、行く先を選んでいるのだろうか。右に左に翻弄されながら、勢いよく、またはゆるやかに、目指す先はあるのだろうか。行き交う人々も、導の前に立ち止まり集い、また別れ、遊具の向こうへ消えてゆく。私の目指すべき場所は…

ノスタルジー

11月22日。 高い鼻、カールした茶色の髪の毛、細い腰、すらりと伸びた手足。光をさらさらと通すような、背の高い、美しい人だった。さっぱりとした性格はどこか見かけ倒しのような、気の抜けるような意外性があった。今まで会ったどんな人でも表せない。 一…

ふらつき

11月23日。 かじかんで赤くなる。ポケットにしまっておけばいい右手を出した。手を繋いで、身体を引き寄せて、ゆるく抱きしめれば、穏やかになれる気がした。 風が頰をさし、頭には血が上ってくらくらする。冷たい空気に研がれた言葉はどんどん鋭利になる。…

11月21日。 話の種なんてもの。 パラパラと撒かれてはじけるのは、フライパンで煽られたポップコーンのよう、即席のおいしい話。 湿った土の下に沈んでいるのは、時間がかかるけれど、たくさんの栄養をためて、膨らんで芽が出たら、一気に花が咲く。みんなを…

オルゴール

11月20日。 人を傷つけないように気を付けていても、思わぬ方向で飛んでいく針がある。私たちの目は、前にしかついてないことを思い知らされる。 近くのものばかり見ているからだろうか。最近視力が落ちて、景色が霞んでしまう。目を細めても焦点が合わず、…

太陽の放射

11月16日。 木々の隙間から射し込む、やわらかな光。照らされた落ち葉の上を、鳩がのしのし歩く。丸みのある体が風にさらわれ、一斉に飛び立っていった。そろそろ戻ろうか。鳩に驚いていた二人組をよそに立ち上がると、冷たい風が体の隙間を通りぬけた。女性…

チョコレート

11月15日。 しあわせな時に、文章なんて書けない。 そう言うのは頭の中のわたしだろうか。満たされた時にだけ出てくる、都合のいいやつだ。隠れるのが上手くて、いなくなったかと思えば突然やってくる。なんでもできるくせに、なにもしなくていいよと微笑む…

公園

11月14日。 そっけない気がする。そっけなくなった。 出会った頃は、楽しそうとか嬉しそうとか、悲しそうとか、微細な変化を掴み取ろうと必死になった。「ねえ楽しい?」そう聞く前に笑わせたかった。ところがどうだろう。今となってはどちらともなく、気が…

あの子の隣

11月13日。 昔、あの子を嫌いだった。 いちばん仲が良いような顔をして、毎日隣にいた。いつも一緒だったが、お互いに依存していたわけではない。離れても平気だったし、なによりあの子は、"誰とでも仲良くできるよ"と、茶色い瞳を細めて微笑んでいた。羨ま…

マフラーとおでん

11月12日。 暖かい布団。温かい食べ物。人肌、ぬくもり。 土曜日の夜は少しずつ、固い画用紙に溶いた絵の具を染み込ませていくように、単調な日々に色をつけた。それはオレンジとかそんな色で、鮮やかな夕焼けみたいに広がった。 「この人がすき。」 そんな…

時計

11月11日。 時間は巻き戻せない。 目が覚めたら、約束の時間をとうに過ぎていて、慌てふためいて早急に連絡をとる。最善策を探すふりをしながら、なんとか冷静を装うが、深い後悔が身体を重たくする。未来に灰色の膜がかかり、心は一度その日を終わらせてし…

落ち葉拾い

11月10日。 都内某所の小学校の横にある公園では、たくさんの落ち葉が地面を優しく覆っている。風に遊ばれて宙を舞い、また重なりあう。5月には青々としていた木々は随分と渋みのある顔立ちになり、にぎやかだったお昼のベンチもどこか声を潜めている。コン…