白い器

12月9日。

ストーブの上のやかんは、シュンシュンと鳴って、カタカタと小さな蓋を揺らす。大人しい一輪挿しは薄麻色をしていて、深い焦げ茶のテーブルに身を預けていた。隣の夫婦は、ぽつりぽつりと話をしては、それぞれの手元の本に視線を落とす。女性がたまにこちらを伺うような目を向けるとき、男性は窓の外をぼんやりと眺めていた。考えることも、体の向きも、向かい合う2人の上を漂って交わるのだろうか。奥の婦人がかぎ針を編む様子に目を奪われながら、君のことを思い出している。紡いだ糸が美しい模様になり、柔らかくテーブルに垂れている。私たちのことも包み込んでくれないか。グラタン皿の淵に残ったチーズが、冷めて伸びなくなってしまった。熱々で、舌をやけどしてしまいそうだったけど、とろりと伸びたチーズの塩気を思い出して恋しくなる。追加で頼んだラテもぬるくなり、読書も5冊目に入っていたところで、そろそろ店を出ようと上着を取る。硝子戸の向こうは日が傾いて、空気は木の幹まで冷やしていた。遠くの空は薄桃色で、重なる雲をも染めていた。洗濯物はいまだにお風呂場で、今日の空を拝めなかった。慌ただしい朝のことは、まるで遠い過去のよう。イチョウの葉を眺めながら、冷えきった手をポケットにしまいこんだ。