オルゴール

11月20日。

人を傷つけないように気を付けていても、思わぬ方向で飛んでいく針がある。私たちの目は、前にしかついてないことを思い知らされる。

近くのものばかり見ているからだろうか。最近視力が落ちて、景色が霞んでしまう。目を細めても焦点が合わず、遠くのビルの窓は曖昧な輪郭を揺らしている。屋上の洗濯物が男性に見えてぎょっとしながら、君のことを思い出した。「ねえ、見て。あの鳥、綺麗だね」「どこ?」「ほら、あの木の隙間。あ、飛んでいっちゃった」早く見つけてくれないから、と頬を膨らませる。「綺麗だったよ」と笑う君は少し困った顔をしていた。

いつも同じ風に、同じ景色を見ているものだと思ってた。見え方なんて曖昧な感覚と、滲んだりぼやけたりする世界。霞んだ目で見る世界は、すこし君に近づいただろうか。