ふらつき

11月23日。 かじかんで赤くなる。ポケットにしまっておけばいい右手を出した。手を繋いで、身体を引き寄せて、ゆるく抱きしめれば、穏やかになれる気がした。 風が頰をさし、頭には血が上ってくらくらする。冷たい空気に研がれた言葉はどんどん鋭利になる。…

11月21日。 話の種なんてもの。 パラパラと撒かれてはじけるのは、フライパンで煽られたポップコーンのよう、即席のおいしい話。 湿った土の下に沈んでいるのは、時間がかかるけれど、たくさんの栄養をためて、膨らんで芽が出たら、一気に花が咲く。みんなを…

オルゴール

11月20日。 人を傷つけないように気を付けていても、思わぬ方向で飛んでいく針がある。私たちの目は、前にしかついてないことを思い知らされる。 近くのものばかり見ているからだろうか。最近視力が落ちて、景色が霞んでしまう。目を細めても焦点が合わず、…

太陽の放射

11月16日。 木々の隙間から射し込む、やわらかな光。照らされた落ち葉の上を、鳩がのしのし歩く。丸みのある体が風にさらわれ、一斉に飛び立っていった。そろそろ戻ろうか。鳩に驚いていた二人組をよそに立ち上がると、冷たい風が体の隙間を通りぬけた。女性…

チョコレート

11月15日。 しあわせな時に、文章なんて書けない。 そう言うのは頭の中のわたしだろうか。満たされた時にだけ出てくる、都合のいいやつだ。隠れるのが上手くて、いなくなったかと思えば突然やってくる。なんでもできるくせに、なにもしなくていいよと微笑む…

公園

11月14日。 そっけない気がする。そっけなくなった。 出会った頃は、楽しそうとか嬉しそうとか、悲しそうとか、微細な変化を掴み取ろうと必死になった。「ねえ楽しい?」そう聞く前に笑わせたかった。ところがどうだろう。今となってはどちらともなく、気が…

あの子の隣

11月13日。 昔、あの子を嫌いだった。 いちばん仲が良いような顔をして、毎日隣にいた。いつも一緒だったが、お互いに依存していたわけではない。離れても平気だったし、なによりあの子は、"誰とでも仲良くできるよ"と、茶色い瞳を細めて微笑んでいた。羨ま…

マフラーとおでん

11月12日。 暖かい布団。温かい食べ物。人肌、ぬくもり。 土曜日の夜は少しずつ、固い画用紙に溶いた絵の具を染み込ませていくように、単調な日々に色をつけた。それはオレンジとかそんな色で、鮮やかな夕焼けみたいに広がった。 「この人がすき。」 そんな…

時計

11月11日。 時間は巻き戻せない。 目が覚めたら、約束の時間をとうに過ぎていて、慌てふためいて早急に連絡をとる。最善策を探すふりをしながら、なんとか冷静を装うが、深い後悔が身体を重たくする。未来に灰色の膜がかかり、心は一度その日を終わらせてし…

落ち葉拾い

11月10日。 都内某所の小学校の横にある公園では、たくさんの落ち葉が地面を優しく覆っている。風に遊ばれて宙を舞い、また重なりあう。5月には青々としていた木々は随分と渋みのある顔立ちになり、にぎやかだったお昼のベンチもどこか声を潜めている。コン…